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何もかも懐かしい…-下村富美「花狂ひ」- [漫画]

宇宙戦艦ヤ○トの某艦長の科白?なタイトルですが、内容はそれとは関係ありません。
…試験関係の話を書こうかと思っていたのですが、今回は別の話を。 


先日、故あって書店をぶらついておりましたところ(「故あって」という割に、「ぶらついている」というのも変な話ですが、まあそこはそれ)、懐かしい名前が目に入ってきました。

下村富美

どのくらい存じている方がいらっしゃるか分かりませんが、本当に久しぶりにその名前を拝見したので、その勢いで購入してしまいました(…私らしい、っちゃあらしいんですけども、ねぇ?)。

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こちらです。…綺麗でしょ? 「花狂ひ」(小池書院)という短編集です。

懐かしい、と書きましたが、私はこの方の作品をつぶさに見てきて、大層思い入れがあるかというと、そんなことはなく(なんだよ、とツッコミを入れられそうですが)、ただ、何年も前になりますが、彼女の数少ない(今回の「花狂ひ」を除くと、計2冊)の単行本のひとつ「仏師」を読んだ後、「この人、他に単行本出していないのかなぁ…」と、何かと気にかけていた時期がありまして。印象に強く残っておりました。

その後、ずっと名前を見かけることなく数年(というか、「仏師」の刊行が1999年ですから、…10年?)。やめてしまう方もままいらっしゃるので、下村…も、そうなってしまったのかなぁ、と思っていたのですが、今回、久しぶりに拝見できて、懐かしいなぁ、という訳です。
いまさらながらに調べてみると、今は京都精華大の講師をされているようですね。


ところで、私の印象に強く残ったという、その「仏師」。
何年も経ったにも拘らず、作者名で「あ!」と思い出すほどの印象を与える作品というなら、どんな作品か覚えているだろう、それを軽く説明してみ?と、御覧の方は思われるかもしれません。

それでは不肖私めが粗筋を説明いたしますと…、と申し上げたいのですが、これがほとんど覚えておりませんで。
断片的であったり、漠然としたイメージしか残っていません。…何か、手塚の「火の鳥」の、鳳凰編の主人公の我王のような仏師で、その心の衝動をもってそれを形にするように仏像を彫るような、そんな感じ?だったような、そうでもないような…。

それならそうと、作品を確認してモノを書けよ!と言われそうですが、売却はしていないので、どこかにあるはずなんですけども、所在が不明でして、探すだけの気力が…。

言い訳ではないのですが、下村…は、ものがたりが上手いという方ではなかったように思います。というのは、作者のいわんとすることが、あまり上手く伝わるように描かれていなかったように思うのです。
ただ、ものすごく伝えたい「何か」がある、というのは伝わってくるような印象がありました。それが、妙に作品(=「仏師」)と合っていたような、そんな感想を持っていたように思います。
作者としては、言葉では上手く説明できないようななにがしかの衝動をもって、それを作品に刻むように描き、読み手としては、作品を見るに、なにがしかの衝動を感じるんだけれども、それが明確にこれこれこういうものという説明ができない、そんな感じ。…上手く言えません。

「何か」があると、そう心に強く印象付けたのは、作品内容ではなく、絵柄、でしょうね。
絵のインパクトが、当時の私には、ものすごくありました。
貶す意味ではなしに、何故そこまで印象に残ったのかは分からないんです。…分からないんですが、何年も経ってから、作者名をちょっと見ただけで思い出せるんですから、その印象たるや、大したものではないかと思います。


「花狂ひ」について、ちょいと触れてみましょう。

収録作品の半分くらいは、私は持っていないのですが、以前刊行された単行本「首」に収録された作品の再録。
具体的には、2000年以降に描かれ、ビッグコミックSPECIAL増刊に掲載された2作品「反魂」「鬼舞」を除いた、「水神」、「首」、「蝶の墓」、「花狂ひ」が再録。

時代としては、平安・鎌倉辺りの印象を受ける作品が多いですが、作品によっては、もっと後の時代かもしれませんが、簡単に言ってしまうと、着物の時代を描いた作品になります。

シリアスな作品もありますが、「反魂」「水神」「首」のような、落語の世界的な、飄々とした、ちょっとブラックなユーモアを感じる作品もあります。「仏師」は前者のシリアスな作品ですけれども、後者の軽妙な作品の方が、肩の力が抜けているようで、個人的には好みです。ノリが上質な落語家が語る古典落語のようで、落語が好きな方は、面白く感じるかもしれません。

描線は、「仏師」の頃辺りを境に変化しているのか、「花狂ひ」の中では、新しい2作品の「反魂」「鬼舞」の線のかすれ具合が素敵な感じです。山田章博(の、ロードス島の後期や「BEAST OF EAST」)が好みの方でしたら、趣味に合致するのではないかと。
それ以前、再録の各作品は、新しくなるにつれ、線のかすれの傾向が出てくるものの、主線が顕著に違う印象を受けます。後の描線と比べると、ちょっと無機質で、少々物足りなく感じます。
それで、表題の「花狂ひ」は、なんでしょう、吉田秋生をちょっと連想します。ヒロインのみづはという娘さんを見ると特にそう思います。…掲載誌が、「プチフラワー」だからでしょうか。小学館系の方の影響があったのではないかと、そんなことを思います。

また、効果線が極端に少ないこともあるのか、コマ→コマの流れは、あまりスムーズではないように思います。これは、新しい作品の方が顕著に感じられます。この辺り、先に名前が出ました山田章博も結構そういうところがあり、画力に頼るところが大きい方は、1コマの完成度へ傾倒して、そうなりがちなのかもしれないなぁなどと、テケトーなことを思いますね。

ともあれ、絵柄は美麗なので、カバーを御覧になって、好みでしたら、手にとって御覧になってみてはいかがかと思います。…このように書きますと、絵だけの方のように思われますが、そうではなく。…そうではないのですが、それでもやはり、より絵に魅力を感じるのではないか、と思います。


ところで、「花狂ひ」でも、2作品を除いて、下村…の作品の主な掲載誌はプチフラワー。
このプチフラワーという雑誌、他にも、吉田秋生、吉野朔実も描いていたことがあるはずですが、少女漫画の埒外(というのは、失礼かもしれませんが、かなり独特の作風のように思うのですが、いかがでしょう?)の作品を拾い上げていて、侮れないなぁ、と思いますね。
これっていうのは、小学館系の少女漫画の特徴なんでしょうか? ちょっと、よくある(←こういえるほど、私は少女漫画に詳しくないのですが)少女漫画とは毛色の違った作品を見る確率が高い気がしますね。

他に、どうでもいいことを書いておきますと、「花狂ひ」、紹介の帯を竹宮惠子が書いているのですが(京都精華大のつながりでしょうかね)、何故か惠ではなく恵。…理由があるんでしょうか。人の名前は、正確にしたほうがいいのでは? と、思わないでもないです。

ということで今回は、「10年も追っかけるだなんて、しつこい男は嫌われるのよ!」と、言われそうな話。
…いや、残念ながら、そんなことを言ってくれる女性が、近くにいらっしゃいませんけれども!


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