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短編って単行本で読む機会があまりないですよね-石黒正数「Present for me」 [漫画]

以前、書いたことがあるかもしれませんが、私は、短編というものが好きでして。なんというのか、作者の本質的な部分が出ているような気がするんですね。

で、前回、SFな話もしましたので、この辺りも絡めて、今回はひとつ、短編の紹介をしてみましょう。
ということで、石黒正数「Present for me」(少年画報社)です。

粗筋はこんな感じ。
舞台は砂漠化した星。油が切れて動けなくなったロボットは少女に出会った。ロボットにとって、久々の出会いである。
再び動けるようにしてもらうため、ロボットは、少女に自分の家まで連れて行ってもらって…、という話です。
文章にしてみると、基本的な設定はありがちというか、結構見かけるものですね。

こういった「よくある話」ですと、上手さは主に演出方向で出てくるように思います。
あとがきを見るに、科白など、かなり作り込んだようです。確かに、よく練られた作品だと思います。

具体的にいくつか上手さを挙げますと、演出面の上手さのひとつには、具体的に発せられる科白は、ロボットのそれ、だけである点があります。登場人物は、ロボットと少女なのに、ロボットにしか科白がなく、少女の科白がないんですね。
少女も確かにしゃべっているんです。ですが、それは吹き出しにされていません。ロボットがする少女の科白の復唱や、ロボットのその前後の科白から推測して、少女の言動を把握することになります。
こういった手法、たまに見るものですけれども、効果的に使うと、面白い表現になりますね。「Present for me」においては、結構効果的であるように思います。

また、動けるようにしてもらうため、ロボットの家まで連れて行ってもらうシーンについても少し。
かなり遠くに家があるらしく、移動手段として、徒歩ではきついので、動物を使うことになるんですが、その動物が、ありふれた牛馬ではないところなどは、最初、単に軽く笑わすところかと思っていたんですが、きちんとその動物である理由が、終盤に至って生きてきます。これも、演出的な面の上手さがあるように思います。

そして、ラスト。思わず、にやけてしまいます。ただ、上手い!とだけ申し上げておきます。これは、演出というより、脚本の上手さですね。作者本人のあとがきにある言葉を引用するなら、「落語的なオチ」が、いい味を出しているように思います。
…もっとも、私自身は、作者の意図を漠然と理解しただけで、完全には把握し切れなかったのですが(理解度は、6割といった程度でしょうか。…もっとゆっくり読めば良かった)。完全には分からなくても、上手さを感じられるだけ、マシだと思っておきます。

とまあ、自分の不明を棚に上げて、少し書きますと、ちょっと残念というのか、こうすればもう少し効果的では?という点を挙げておきますと、ひとつには、ロボットを運ぶ際に出てくるロボットの電池は、もっときっちりと見せておいた方が、意図が伝わり易いのではないか、ということ。
もうひとつは、終盤近くに、ラストのオチにつながる重要な科白があるのですが、その科白をもっと印象付けるべく、強調しておいた方が良かったのではないかなぁ、ということ。ちょっと、さらっと流しすぎな感があります。

ただ、この2点、強調して描きますと、かなりあからさまな感じにもなる微妙なものでして、私自身は、もっと強調してもそのくらいは許容範囲ではないか、と思うんですけれども、作者としては、少しあざといと感じたのでしょうか。
だから敢えて、抑え気味なのかもしれません。
この辺りは、興味を持たれた方、御自身の目でご覧になって、確認して戴きたいものです。

 

そんな訳で、私は、この作者、かなり気に入りましたので、他の作品にも手を出してみました。
現在、「それでも町は廻っている」という作品を連載中、のようです。作風としては、基本コメディ、でたまにちょっといい話、な作品ですね。結構好みの作品です。

基本的に、何が起こるでもない日常のちょっとしたことを採り上げている作品、なんですが、こういった作品を上手く描ける方、好きです、私。日常を魅力的に描けるというのは、上手さのひとつではないか、と思うんですよね。

ということで今回は、短編の紹介ゆえに、文章も短編にてお送りしましたという話。


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