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ジャケ買いならぬ…―伊図透「ミツバチのキス」― [漫画]

「ジャケ買い」
音楽CDなどで、「こういった音楽?」などと、想像しつつ、そのジャケットが気に入ってコンテンツを吟味せずに購入する、そんな行為があります。

私は、最近は滅多にCDなどを購入することなどないので、ジャケ買いはしていないのですが、似た行為をすることがあります。

「カバー買い」、と言えばいいでしょうか。
漫画の掲載誌などで既読のものでもなく、また、作者の作風も知らないけれども、カバー絵に惹かれて何とはなしに購入する行為。
以前、書いたことがあったかもしれませんけれども、私は、そんなことをすることがあります。
…こちらをご覧の方は、あまりそういったことはなさらないでしょうか。 …しない? 「そんなところでチャレンジャーな精神を出すことはないのでは?」 …そうですよね。

…ですが、続けてしまいます。
最近では、「とろける鉄工所」もそんな感じで購入したものなんですが、今回取り上げる作品もそんな感じで購入したものになります。
諸々の余裕がある訳でもないのに(むしろ全くない)、何か妙に惹かれるものを感じると、つい…。

ということで、今回は伊図透「ミツバチのキス」です。

件のカバーはこんな感じ。

ミツバチのキス.jpg

同じ感想を持たれる方もいらっしゃると思いますが、最初目にしたときは、単に
「…王蟲(の穏やかなときの眼の色)?」
と、思いましたよ。「なんて綺麗な青…」とか、ナウシカのようなことまでは想起しませんでしたけれども。
ただ、「ナウシカ」を見たり、読んだ人なら、大概の方は「…王蟲(もしくは腐海の蟲)?」と思いますよね、これ。

まあ、きっかけはそんな程度で十分ではないかと思うのですが、「え? 何これ?」と、目を引きましたので、手に取ってみて、帯をしっかり読んでみて…。
これは面白そうだと思いました。

…そういえば、昔と違って、最近は、カバーになにがしかの作品内容の説明があって(「ミツバチのキス」は、帯でしたけど)、カバー買いも、ある程度予想ができてありがたいです。売ろうとするなら、ある程度、こういった未読の方への案内は必要なんでしょう、きっと。

今回のカバー買いの結果は…、当たりでした。

粗筋はこんな感じ。
ある宗教団体に属する少女には、特殊な能力がある。触れた人のことが「わかってしまう」のである。その宗教団体は、少女の能力を利用して、拡大路線を突き進んでいる。だが、少女は、利用されることを嫌い逃走し、潜伏する。しかし、少女をマークしていたのは、宗教団体だけではなかった。国家機関も彼女を追って…、という話。
…文章にすると、なんだか本当に荒唐無稽な印象を受けますね。私の文章力のなさが恨めしい限りです。
ただ、一読すると、全然印象が違うかと思います。

絵柄についても少し。
かなり線が細いのも影響して、繊細な印象を受けます。そのためか、ちょっと訴えかけるものまで弱く感じられます。…いや、作風というのか、作品内容には見合っているんですけども。主人公の少女、はかなげというのか、心が弱いんです。

また、構図というのか、レイアウトというのか、は、前半は、平凡であったり、上手く整理されていないコマが多いためコマ数も多く、目を引くところは少なく感じられます。ただ、これが後半に行くにしたがって、秀逸なものが見受けられるようになっていきます。
この辺りから、これから絶対に、さらに上手くなる、そう予期させるものを感じます。

マイナスから書いてしまいましたが、劇画タッチの絵それ自体は、かなり上手いです(そのため、余計に当初のレイアウトに物足りなさを感じてしまうのですけれども)。

また、絵柄は、五十嵐大介の影響を多少受けている、のかなぁと感じます。…キャラクターの造形は全然似ていないのですが、線の細さと、線の重ね方が少し似ているからでしょうか。
エピローグのガラス片の描写などは特にそれを感じますし、さらにP.194,195の描写を見るに、私が五十嵐の「魔女」を連想するから、そう感じるのかもしれません。
ただ、ちょっと線が細いですけども。…重ねて書いてしまいますが、上手いのに、この線の細さからくる押しの弱さは、少しもったいない感じがします。

その描線の特徴をひとつ書きますと、人の心へのダイブの描写の際に描かれる細い、もつれた糸のような線が描かれるのですが、この糸のような線が非常に印象的です。
本来、見えないものである人の心を、ビジュアライズする。これが秀逸です。私はこの作品、この「見えないものの視覚化」の上手さに惹かれました。

…ただ、ちょっと引っかかることがありまして。あ、「引っかかる」といっても、事のよしあしという意味ではなく、「何か知っているような気がする…」という引っかかり方です。
このもつれたような描線を描く手法、どなたか、こういう手法を採られる方、他にいらっしゃらなかったでしょうか? 何か、これに似た描写を見た記憶があるんですが、気のせいでしょうか。…それこそ、五十嵐大介、でしょうか。
何か、思い当たる作者や作品を御存知の方がいらしたら、御一報戴けるとありがたいです。

作者について。
作者の伊図透。単行本の帯を信用するなら、これが第一作だそうで。…上手い人というのは、最初から上手いんだなぁ、と思います。
新人とは思えないです。

ともあれ、「ミツバチのキス」の掲載誌は「漫画アクション」だったそうですが、メジャーとはいいがたいところです(よね?)。
多くの人の目に触れて欲しい作品ですので、私の拙い文章で多少なりとも興味をもたれた方には、御一読戴きたいものです。


余談ながら。
新人ということのつながりで、ひとつ。

最近、私は購読している雑誌が増えておりまして、その中のひとつに、「good!アフタヌーン」があります。
その中で「鉄風」という作品の連載を始めた、太田モアレが最近気に入っております。
この方、アフタヌーンの四季賞「魔女が飛んだり飛ばなかったり」という作品で大賞をとった方でして、そのときから、気になっておりました。
「連載とれてよかったぁ…」と、ファンとしては嬉しい限りです。

余談ながら。「good!アフタヌーン」、他にも、石川雅之であったり、木村紺(の「巨娘」…)であったりの連載があり、また、個人的に好みな方として、ふわふわとして妙な雰囲気のある作品を描く、釣巻和(つりまきのどか)が描いていたりしますので、ご一読されてみてはいかがかなぁ、と思います。

…そういえば、今度の日曜にあるコミティアには、釣巻和が参加するんですよね。今回は私も会場に足を運ぶ予定ですので、楽しみです。

おっと、話がテレテレと続いてしまいそうですので、今回はこの辺りにて。
ということで今回は、「カバー買い、私もしますよ?」というリアクション絶賛募集中!という話。


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コメント 4

みけにゃん

お久しぶりでございます。
私も本のジャケ買いしますよぉ。
同じく余裕はないですが・・・(うふっ)
「とろける鉄工所」、「ミツバチのキス」、五十嵐大介、等の名前がとってもうちの店に合うんで(仕事で)、その思考が私にもほしい・・・コミック担当になって早2年・・・この不景気に売上をとるのはとっても難しい(TT)
五十嵐さんは「海獣の子供」くらいしかよんだことないので。

ジャケ買いしそうになったのは、メディアファクトリーから出版されている「70億の針」ってやつなんですが・・・気にはなるけど結局買ってないw;
もし読んでらしたら感想お聞かせください。
後、今気になるといえば・・・
「福満しげゆき」「中村明日美子」「数学ガール」(メディアファクトリー)ですね。
すごく好き勝手に書いてコメントっぽくないですが、お許しを・・・
by みけにゃん (2009-02-11 13:31) 

粋狂

>みけにゃんさん
コメントありがとうございます。
いやいや、いろいろ書いていただけるコメント、リアクションのしがいがあって、大好きですよ。

「ジャケ買い」の同好の士がいらして嬉しいです。

お店の件ですが、私の好みと、店の客層の好みが合致するんでしょうかね。
…客層に、オッチャンが多いと、そうなるかもしれません。
獲得すべきは、オッチャンの思考回路? 獲得したら、獲得したで、ちょっともの悲しいような気がいたします…。

余談ながら、五十嵐さんは、読み易さからは「リトル・フォレスト」、個人的な好みとしては「魔女」がお薦めです。
前者は、地に足のついたスローライフ、な作品で、
後者は、魔女とされる者を主人公にした連作集で、言語による知の限界と非言語の知の広大さを描いたりして(それで、魔女は言語と非言語の橋渡しをする役割を担っているということになります)、文章にするとえらく「こ難しい」印象を受けますが、読むと結構すっと内容が頭に入ります。…この辺りで、本当に上手いなぁ、と思います。

「70億の針」
私は、存じませんでしたが、検索してみると…、面白そうですね。
「数学ガール」もそうですが、メディアファクトリー、侮れませんね。なるべくこまめにチェックを入れるようにしたいです。

福満さんの作品は、自分の日常を描いた作品が多いですね。私は「奥さんが可愛い方だなぁ」という理由から、結構好きです。

中村明日美子…。
名前の字面を本屋で見たことがあったなぁ、と思い調べてみましたが…、こっち方面の人でしたか。そちらにまではなかなか…。修行が足りませぬ。
by 粋狂 (2009-02-12 07:37) 

みけにゃん

「店」
確かにビジネス街なので、男性のお客様は多いですね。
あと、予備校も近くにあるので大学生くらいのお客様も多いです。
オッチャンの思考回路獲得したいですw
粋狂さんがおっちゃんだと言ってるわけではないですよぉ。

「五十嵐大介」
スローライフよりも「魔女」のほうが面白そうかも
2巻で完結してるのでしょうか?
今度機会があればぜひ読んでみたいです。

「メディアファクトリー」
そう、侮れないんです(笑)売れないのはまったくって感じなのですが、たまに「おっ」と思うものがありますね。

「福満しげゆき」
奥さんが可愛い・・・じゃぁ、双葉社さんの「うちの妻ってどうでしょう」とか面白いんでしょうか。
by みけにゃん (2009-02-14 13:37) 

粋狂

>みけにゃんさん
五十嵐大介の「魔女」ですが、もともと不定期の連載であるのと、作品の形式が連作であって、2巻で一つのものがたりの区切りは付いているのですが、2巻の終わりで明白に完結、という終わりでもないため、微妙な感じです。

一応、2巻が出たときの段階では「全2巻」という表記ではなかったのですが、続きがいつ描かれるのかも未定、な状態です。終わっているともいえるような、そうでもないような、なんとも微妙な…。

あ、ただ、消化不良な感じで終わっている訳ではないですから、興味をもたれましたら、ご一読されてみてはいかがかと思います。

福満さんの作品ですが、時系列で並べますと、

「僕の小規模な失敗」(青林工藝舎)、
「僕の小規模な生活」(講談社)これが不定期で描かれているときに並行して(?)
「うちの妻ってどうでしょう?」(アクションコミックス)
で、きちんとまとまった連載として、再度「僕の小規模な生活」、という感じではなかったかと思いますが、

上記の作品群は、基本的に作者の身の回りのことを描いた作品になりまして、作者の「僕」と奥さんの話が中心になっているかと思います。
私自身は、手許に「うちの妻ってどうでしょう?」だけはあります。
by 粋狂 (2009-02-15 22:21) 

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